婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「小春さん、諦めないでくださいね。翔のこと、何があっても手放してはダメです。悔しいですが、翔の話をしている時の小春さんはいちばん可愛いので」
「諦めないよ。また翔くんが私から離れようとしても、もう簡単には離れてあげられない」
そう宣言すれば、栞さんはまた美しく笑った。
栞さんが怒ってくれたおかげかすっきりした気分で居酒屋を出ると、櫻坂の桜がライトアップされて煌めくのが見えた。
ベリヶ丘の住宅街に住んでいる栞さんは見慣れているのか気にせず歩き出している。
ふと、目に入った男女がいた。桜の下で女の人が、男の人に抱きとめられているように見える。なんてことない一コマのはずなのに目が逸らせないでいたら、角度が変わって二人の顔がはっきりと見えた。
よく知りすぎているその顔に、どくんと心臓が跳ねる。
「あれ、翔ですかね? え、あいつ女の人と…!何してるの!?」
栞さんも気づいたようだ。今にも殴り掛かりにいきそうな彼女を制して、私は言う。
「何か事情があるんだよ」
たぶん、ものすごく冷えた声だったと思う。栞さんがハッとして口を噤む。私は迷うことなく翔くんの方へと歩みを進めた。
ずんずん近づいて、声をかける。
「翔くん」
「小春さん…!」
彼が顔を上げて、驚いたように声を上げた。
「どうしてここに? あ、栞と会ってたんですね」
「翔くん。 その子は誰?」
ああ、もうちょっと落ち着け、私。翔くんの様子を見るに、この女の子と何かあるわけではないのはわかる。でも気づいてしまった。山本さんだ。通りで目が離せなかったわけだ。翔くんの周りの女の子のことは気にしていないとか言いながら、めちゃくちゃ意識している自分に嫌気がさす。でも、嫌なものは嫌だ。
「私、帰りますね」
そこで口を挟んだのは山本さんだ。宣戦布告してきた時とは打って変わって、私の登場に焦ったのか、そそくさとその場を退散していった。翔くんは困ったような顔をしている。
「諦めないよ。また翔くんが私から離れようとしても、もう簡単には離れてあげられない」
そう宣言すれば、栞さんはまた美しく笑った。
栞さんが怒ってくれたおかげかすっきりした気分で居酒屋を出ると、櫻坂の桜がライトアップされて煌めくのが見えた。
ベリヶ丘の住宅街に住んでいる栞さんは見慣れているのか気にせず歩き出している。
ふと、目に入った男女がいた。桜の下で女の人が、男の人に抱きとめられているように見える。なんてことない一コマのはずなのに目が逸らせないでいたら、角度が変わって二人の顔がはっきりと見えた。
よく知りすぎているその顔に、どくんと心臓が跳ねる。
「あれ、翔ですかね? え、あいつ女の人と…!何してるの!?」
栞さんも気づいたようだ。今にも殴り掛かりにいきそうな彼女を制して、私は言う。
「何か事情があるんだよ」
たぶん、ものすごく冷えた声だったと思う。栞さんがハッとして口を噤む。私は迷うことなく翔くんの方へと歩みを進めた。
ずんずん近づいて、声をかける。
「翔くん」
「小春さん…!」
彼が顔を上げて、驚いたように声を上げた。
「どうしてここに? あ、栞と会ってたんですね」
「翔くん。 その子は誰?」
ああ、もうちょっと落ち着け、私。翔くんの様子を見るに、この女の子と何かあるわけではないのはわかる。でも気づいてしまった。山本さんだ。通りで目が離せなかったわけだ。翔くんの周りの女の子のことは気にしていないとか言いながら、めちゃくちゃ意識している自分に嫌気がさす。でも、嫌なものは嫌だ。
「私、帰りますね」
そこで口を挟んだのは山本さんだ。宣戦布告してきた時とは打って変わって、私の登場に焦ったのか、そそくさとその場を退散していった。翔くんは困ったような顔をしている。