婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「家、私のマンションの近くって言ってた」
「…ほんとのこと言ったら、小春さん俺にまっすぐ帰れって言うでしょ」
「当たり前だよ! いつもの居酒屋さんからここまで近いのに! わざわざあんなところまで来てたなんて…」

もう、何が何だか。そもそもここに住んでたのもびっくりだけど、私のマンションからここは結構距離がある。なんでそこまでして私のために動けるのか分からなかった。

「嘘ついてたのは…すみませんでした」

しゅんとしているのを見ると、これ以上はかわいそうな気もしてくる。でも、これからもそうやって、私のためだからと自分を後回しにはしてほしくない。

「夏樹くん、私のためにしてくれるのは嬉しいよ。暗くても1人じゃないから安心もできた。 でもね、私は夏樹くんがいつもここまでひとりで帰ってたと思うと悲しいよ。寒い中、私なんかのために…」
「私なんか、じゃないです。 小春さんは、俺の大事な人で、俺が自分でしたことだから。小春さんは考えすぎだと思います。仕事でも、外でも、いろいろ」

夏樹くんがしっかりと私の瞳を捉える。考えすぎ…は、認める。昔からよく真面目だねって言われてきたし、むしろ真面目すぎるのは短所でもあると思う。
けど、これは深刻な問題じゃない!?
夏樹くんと一緒に暮らす上で、何も考えずにのんきになんて……

「俺といる時は、難しいことは考えなくていいです。 ただ俺だけを見てください」

そんなの、できるわけないでしょ!

「まあでも、これからは小春さんが悲しむようなことはしません。自分のこともちゃんと考えるようにします。小春さんのために」

うーん。いまいち伝わってない…というか、方向性が違う。
でも、まぁ…

「うん。今はそれでいいよ」

そういえば、気になることがある。夏樹くんにあの時かかってきたあの電話はどこからだったのだろう。空き巣事件のことだったんだろうけど、なんでわざわざ夏樹くんに電話がくるの?

これ、聞いても夏樹くんは教えてくれない気がする。彼の出身とか諸々謎な部分、いつかは教えてくれるのかなぁ。
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