婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
オフィスに人はまばら。PCを閉じてちらりと隣のデスクを見やる。
翔くんの仕事も終わりそうだったので、私は帰り支度を始めることにした。なんとなく、帰りの時間をピッタリ合わせるのは気恥しいのと、この間もそうやって居酒屋さんに行ったばかりだから。何故か翔くんを応援する声が多いここであからさまな行動は避けたい。私たちの同居は内緒だしね。

「先、行ってるね」

社員に声をかけ翔くんにこそっと囁くと、彼に引き止められた。

「あ、待ってください。 えっと、そうだ。エレベーターの所で待っててもらえますか?」
「いいけど、それじゃ時間をずらす意味があんまり…」
「俺もすぐ行きます!」

うん、まあいっか。そんなにきらきらした顔で言われるとそう思えてくる。
ということで、オフィスを出てわりとすぐのエレベーター前。
翔くんはほんの五分ほどでやってきた。小走りで。

「すみません、お待たせしました」
「いやいや、全然待ってないよ。 それより、そろそろどこに行くのか教えて…、」
「行きましょう」

言うなり彼は私の手を取って歩き出す。え、エレベーターに乗るんじゃないの?

「あ、翔くん? これは…」

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