婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
やってきたのはレストランで、案内されたのは一面の窓に沿ったカウンター。席どうしの距離がかなり確保されている。それになんか、構造的に半個室みたいになっている。
ほとんど翔くんと二人きりだ。
二人きり。意識してしまう。暗めの照明のおかげでお互いの顔が少し隠れるのがちょうどいい。ダメだ。このままだと雰囲気に呑まれそう。気を紛らわそうと口が勝手に開く。平静を保って。
「ここって、こんなに景色が綺麗だったんだね」
「同じ建物でもオフィスは低層階ですからね。 新鮮でしょう?」
翔くんが全く新鮮に思っていなさそうなのにはもう驚かない。私の中で彼の謎さは一定のレベルを超えたのだ。
「うん。とても」
「金曜日ですし、強めのお酒でも大丈夫ですか?」
翔くんが聞いてくれる。私は少し考えて、「控えめにしておこうかな」と返す。慣れない場所で、しかもこんな高級レストランで潰れるなんてあってはならない。彼に恥をかかせることになるだろう。
と、思ったのだけど。
「小春さん、やっぱりいつもの居酒屋が良かった?」
眉を下げて不安そうに瞳を揺らすから困る。
そんな顔されたら、見栄を張って普通にしようなんて思えないじゃない。
「そんなことないよ。翔くんが連れてきてくれなきゃこの夜景は知らないままだったから嬉しい。緊張はしてるけどね。きっとお酒も私が飲んだことないようなものがあるんだろうし、酔っ払っちゃったら翔くんに迷惑がかかるでしょう?」
翔くんの真剣な顔を見つめる。
「そもそも今日のは、小春さんに俺が男だって意識してもらいたくて考えたんです」
「う、うん、そっか、」
「俺は、小春さんに惚れてます。 もうただの後輩は嫌です」