婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「あの、翔くん。 お支払いはさせてね。すごくスマートにスルーされてる気がするんだけど」
「そのままスルーの方向で大丈夫です。 俺が勝手に連れてきてしまったわけですし、ここは俺を立てると思って、ね。最後までスマートでいさせてください」

うぅ…その爽やかスマイルやめて。彼もお酒は入っているはずなのに、ピンピンしてるし、今日はジェントルマンで通すつもりだ。私を先輩にしてくれない。

易々と頷くわけにも行かず、どうしようかと考えあぐねていた時だ。2階分下がったところでエレベーターが静止して、扉が開いた。翔くんはすっと私を自分の斜め後ろに促す。なんだかボディーガードされてるみたい。大きな背中を見上げていたら、ちらりと乗り込んできた人の顔が見える。

綺麗な人…。凛とした表情に堂々と伸ばされた背筋。ダークブラウンの髪が控えめに揺れる様子は、女の私でも惚れそうなくらい麗しい。
と、その後ろにはガタイの良さそうな男性。女性の方は真っ赤なドレス、男性はスーツだ。そっか、ここはVIP専用だった。まさにセレブ、といった感じね。

「翔? 何してるのよ、こんな所で」

瞬間、私は耳を疑った。このラグジュアリーな美女は知り合い!?もはや交友関係まで、彼は私と同じ世界の住民ではなさそうだ。

「何って、俺がここにいたら悪い?」

おやおや、翔くんのその対応、珍しい。ちょっとぶっきらぼうでめんどくさそうな物言いは、職場にいる時には見せない一面だ。前に居酒屋さんの帰り道を歩いていて彼の同級生だという人に会った時は、そんな感じだった。

どう考えても場違いな私は居心地悪くて、挨拶をするべきなのか、いやでもどうやって?なんて考えていたら、美女がちらりと私を見る。

「…あぁ。 そういうこと」

綺麗な髪をなびかせて冷たく放つと、美女は翔くんの隣に立つ。うわぁ、いい匂いするよ。できる女の香りだ…。

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