婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
私はびっくりして固まった。なんて大胆! 正面にいるのは私だけど、彼女の目はしっかりと翔くんのほうを捉えている。その勇気には思わず感心してしまうけれど、翔くんはこういうの、あまり好きじゃないんじゃ――

「申し訳ありませんが、お断りします。 彼女がいるので」

言いながら、彼は私の肩を引き寄せる。そのまま手を繋いでお店を出ていく。たしかに私たちは恋人のフリもしているけれど、今ここでそれを発揮する必要はなかった。

「すみません。 こうするのが早い気がして、勝手に。 店に入った時から視線は感じてたんですけど、まさか連絡先を聞かれるとは思わなかった」
「うん、びっくりしたね。 ああいうのよくあるの?」
「…まぁ、たまに」

歯切れの悪さからしてたまにではなさそうだ。

「翔くんはかっこいいからね。女の子たちはみんな憧れてるんだよ」

繋いだままの手にドキドキしているのが分からないように、平静を装った。
翔くんが振り返る。

「小春さんは?」

彼はいたずらっぽく口の端を上げる。

「俺のこと、かっこいいって思ってる?」
「そりゃあそうだよ。 眉目秀麗、高身長、ツインタワーのエリート。スペック整いすぎだから」
「そういうことじゃないんですけど…」

翔くんはあーとかんーとか納得いかない感じだ。そういうことじゃないのくらい知ってるよ。私は気づかないふりをして、逃げてるずるい大人だ。この話題はもう終わりにしたい。
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