余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
 「あら? あれは……ペンバートン卿」

 いつの間にやら領主邸の近くまで来ていた。屋敷の門の前には小柄でふくよかな男性の姿がある。
 
 彼こそが噂の善政領主オスカー・ペンバートンだ。そんな彼の横には赤毛の可愛らしいメイドの姿も。いずれも和やかな表情を浮かべていた。

「申し訳ございません! お待たせをしてしまって」

 エレノアは一人駆け出した。護衛達も続いて駆け出――さない。遅いからだ。それこそ駆け足でも追いつけるほどに。

「えっ? あ……っ、えっ……?」

 戸惑っているのは新米護衛のミラだけだ。

「はぁ……はぁ……くっ……!」

 白いヴェールが滑り落ちてミルキーブロンドの髪が露わになる。終いには膝をついた。真っ白なカソックが土に塗れていく。

「エレノア様!!!」

 ミラは落ちたヴェールを拾い、大急ぎでエレノアに駆け寄る。

「みんなとの旅で、少しは体力がついたと思っていたのだけれど……」

 エレノアは息も絶え絶えに応えた。ミラは同調するように苦し気な表情を浮かべる。

「エレノア様、もしかしなくても病気? なんですか……?」

「……いや」

 歯切れの悪い返事をしたのは、大柄で人の好さそうな茶髪の騎士だった。彼の名前はロナルド・スミス。42歳。得物は大剣クレイモアだ。

 彼もまた他の騎士同様に鎧、紋章入りの白いマントを着用している。ただ、彼の場合は特別で、肩の留め金付近に階級章が付いていた。横長の赤いバッジには3つの星が。これは彼が隊長の位にあることを示している。

「~~っ、隊長!」

「聖女様はその……運動が不得手でいらっしゃるのだ」

「えっ……」

 隊長は小声で返した。エレノアに配慮してのことだ。しかしながら、無情にも響いてしまう。のどかな農村において、彼らの声を阻むのは牛の鳴き声ぐらいのものだったのだ。
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