余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「ふふっ、ごめんなさい。あまりにも可愛いかったのでつい」

 ビルは妖しく微笑みながら馬の耳を掻いた。その馬は隊長の馬だ。栗毛の勇ましい馬だが、今は瞳を蕩かせてビルに甘えている。

 まさに骨抜き、ベタ惚れ状態だ。他の馬達も『俺も!』『私も!』とせがむようにしてビルに鼻先を寄せている。

「くっ……」

 ミラは悔し気だ。エレノアはそんな彼女を見てくすくすと笑う。

「大丈夫よ。ミラは優しいもの。その内にきっと仲良くなれるわ」

「えっ? あっ、はい……」

 曖昧に笑うミラに、エレノアは「うんうん」と頷いてエールを送る。

(さて……)

 何気なく周囲を見回す。

(ユーリは……来そうにないわね)

 予定時刻を15分も過ぎているというのに、ユーリが現れる気配は微塵もなかった。

(バカね。何を期待しているのかしら)

 エレノアは未練を断ち切るように、勢いよく馬車に乗り込んだ。その後には護衛見習いのミラも続く。

「フォーサイス卿にもどうぞよろしくお伝えください」

「ええ、必ず」

 伯爵の見送りを受けて馬車が動き出す。
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