余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「……さぁ?」

 エレノアは隙のない笑顔を作り首を傾げる。

「記憶にないわ」

「えぇ!? 覚えてないんですか!?」

「もう9年も前のことだから……」

 嘘だ。ミラには悪いがはっきりと覚えている。きっかけはレイとの会話だった。

(賢者になれば、わたくしのような運動が不得手な人間でも勇者パーティーに加わることが出来る。貴方はそう教えてくれた)

 エレノアは歓喜した。母は三大賢者一族ロベールの生まれ。歴代最強と称される賢者エルヴェを叔父に持つ自分であれば、賢者になれる可能性は十二分にある。手が届く夢になったと、そう思い込んでしまったのだ。

(直後、わたくしは輝いた)

 聖職者である『聖者/聖女』は戒律により戦闘行為ないし戦闘に加担する行為を禁じられている。端的に言えば『聖者/聖女』はヒーラー役を担えない。勇者パーティーに加わることが出来ないのだ。

(改めて思い返してみると本当に皮肉な話ね)

 ありがたいことに今となっては笑い話だ。けれど、レイにとってはそうではないらしい。こうしている今も罰が悪そうな顔をしている。

 レイとて悪気があったわけではない。むしろ励まそうとしてくれたのだ。夢が遠のいていく。そう言って不安がるエレノアのことを思って。

(貴方には感謝しているのよ)

 これまで何度となく伝え、伝わらずにきている感謝の言葉。また後で、機を見て話してみようと静かに結ぶ。

「気になるじゃないですかぁ! 何かヒントを! ちょっとでも思い出せませんか?」

「ん~……ごめんなさい。お力になれそうにないわ」

「ぶぅ~……」

 むくれるミラ越しにレイと目が合う。彼は目礼をした。その眉間には深いシワが刻まれている。エレノアは苦笑一つに首を左右に振った。

「あっ! そうだ! ビルさんは? 何か知ってるんじゃないんですか?」

「ごめん。僕も詳しいことは」

「えぇ~……」

 おそらくは知っているのだろう。だが、話さずにおいてくれた。エレノアの意向を汲んでくれたのだろう。

「あ~! もう! こうなったら神頼みだ。神様お願い! ユーリを勇者にしてください!」

 ミラはそう言って祈りを捧げた。固く目を閉じて唇を引き結んでいる。熱い思いを胸に祈ってくれているのだろう。

(……ごめんなさいね)

 エレノアは胸の内で詫びた。
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