余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
 ユーリが覚醒したとしてもその未来を変えることは出来ない。エレノアは彼を待つことが出来ないのだ。

 この血を、『聖者/聖女』の血を持つ者を一人でも多く残さなければならないから。

 だから、10年後とした。仮にユーリがあの約束を守ってくれたとしても、その頃にはエレノアは手の届かない存在になっている。双方共に諦めがつくだろうと、そう考えたのだ。

(……最低ね)

 エレノアは白いウエストバッグから手を離した。行き場を失った手でカソックの裾を握り締める。

「聖女様!! お連れの方々!!!!」

 酷く切迫した声。皆の意識が後方に向く。

 20メートルほど離れたところに青年の姿が。半ば馬にもたれ掛るようにして騎乗している彼のその腕からは、(おびただ)しい量の血が流れ出ていた。

「停めて!!」

 直後、馬車が大きく揺れた。踏ん張ることで辛々バランスを取る。

(っ、停まった)

 エレノアは半ば倒れ込むようにして馬車の扉を開ける。

「しっかりしろ!」

「みん……を……っ」

 隊長が青年の馬を止める。呼びかけも行ったが、返ってきた反応は酷く弱弱しいものだった。

「おろします」

「ああ。頼む」

 騎士・ゼフが青年を地面に横たえた。甲冑がすらりとした長身によく映えている。後ろで一つにまとめられた薄茶色の髪が、右に左に気ままに揺れていた。
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