余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「わっ、わわ……っ!」

 ミラの手元の魔法陣が消えかける。動揺したのだろう。ギリギリのところで立て直して治療を再開させる。

「わたくしはユーリの家にいます。手に負えない事態が起きたら、その時は迷わず呼んで頂戴」

「はははははっ! はい!!」

「聖女様、目は決して開けないように。しっかりと掴まっていてください」

「分かりました」

 エレノアの右頬にビルの広い胸が触れる。血のにおいがした。鼻孔が鈍く痺れる。もしかしたらこれはユーリの血であるのかもしれない。

「っ!!!」

 ビルが駆け出した。凄まじい速さだ。適応しきれず吐き気を覚える。決死の思いで治癒魔法をかけつつ力任せに口元を押さえ込んだ。

「着きました」

「あぁ……ええ……」

「お手を」

「……ありがとう」

 ビルに腕を引かれる形でユーリの家に向かう。壁は煤けた白土壁。見上げれば(こけ)混じりの重たい茅葺(かやぶき)屋根があった。

 庭の前で気ままに歩く鶏を一瞥しつつ家の中へ。入って早々、レイとユーリの母親のやり取りが聞こえてきた。

「まっ、魔術師様のお力を以てしても息子の腕は治らないのですか?」

「ええ。ですが、ご安心ください。聖女様であれば――」

「お待たせしました」

 エレノアは挨拶もそこそこにユーリのもとに駆け寄る。彼は白いベッドの上に横たわっていた。腕に巻かれた包帯は血で真っ赤に染まっているが、その他の個所に外傷はなく呼吸も安定しているように思う。
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