余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
 言わずもがなこれは無言の抵抗だ。例え国中を敵に回したとしても息子は渡さない。そんな強い意思が伝わってくる。

「ユーリ!!!! ユー……、エリー……?」

 男性が駆け込んでくる。糸目のその人はユーリの父・バリーだ。虹色に輝くユーリ。そんな息子を抱き締める妻・エリーの姿を見て状況を把握したようだ。沈痛な面持ちで顔を俯かせる。

「父ちゃん! あっ、そうか。父ちゃんもエレノアに治してもらったんだな」

「……ああ」

「ごめんな。今度はちゃんと守るから」

 バリーが目を見張った。心底驚いている。自身の耳を疑うような表情で。

「オレ、勇者だったんだ。もっともっと強くなれる。だから――」 

「アンタは黙って畑を耕してりゃいいんだ」

「えっ?」

「畑を耕してりゃいいんだよ」

 エリーは懇願するように、暗示をかけるようにユーリに語りかける。ユーリの小さな体を強く抱き締めながら。

「母ちゃん? なっ、何だよ。どうしたんだよ? 何か変だぞ……?」

 ユーリは戸惑っているようだ。もしかすると、母の真意に触れたのはこれが初めてのことであるのかもしれない。

「大きくなったら()()()()女と結婚して家庭を持つんだ」

「は? イヤだよ。だってオレは――」

「っ、地味で何の面白味のない人生かもしれない。でも、……でも……っ、それでいいじゃないか!」

 エリーの栗色の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 平穏無事に過ごして欲しい。それが彼女の願い。母親である彼女が息子であるユーリに求めるたった一つの願いなのだろう。

「エリー」

 バリーがそんなエリーの肩を叩いた。彼女の背が大きく跳ねる。
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