余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「俺も『(はやて)』が使えたらな~」

 颯はまさに神速で、馬の足を(もっ)てしても追いつくことは出来ない。ゼフが同行するのは実質的に不可能であるのだ。

「気持ちだけありがたく貰っておくよ」

「んん~? 何だ? 妙に爽やかだな」

「別に? そんなことないけど」

「呑み、スキップ出来てラッキー♡ とか思ってんだろ?」

「っ! ……さあ? どうだろうね」

「んの野郎~~っ」

 ビルは(くすぐ)ったそうに笑った。先程まで見せていた重苦しい感情は何処へやらだ。

(流石ね)

 彼らの付き合いは彼是(かれこれ)20年近くにも及ぶ。

 気の置けない『幼馴染』のような関係にある2人だが、つい最近までは主従の関係に。明確な上下があった。

 ゼフは使用人夫妻の子供。両親共にビルの父・キャボット男爵に仕えていたからだ。

 それが数か月前、ビルが勘当されたのを契機に一変。()()()()()()()()でフランクな関係を築くに至ったのだという。

「ほらっ、持ってけ」

 ゼフは丸いガラス瓶を3つ手渡した。

 回復薬。ビルにとってみれば欠かせないアイテムだ。彼は回復魔法を扱えない。傷付いた体を癒す術を持たないから。

「こんなに沢山……悪いよ」

「いいから持ってけ」

「でも――」

「いいから」

「……ごめんね。ありがとう」

 ビルは申し訳なさそうに目を伏せつつ、飴色のウエストポーチに回復薬をしまった。

「頑張れよ。戻ってきたら俺がたーんと癒してやるから――」

「あっ! あの!! そっ、それならアタシが!!!」

 唐突にミラが名乗りを上げた。()()()()と捉えたのだろう。
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