余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
 坊ちゃん。

 ゼフはビルがいないところ――裏では彼のことをそう呼ぶ。

 ゼフからすればビルは変わらず主人であり、忠義を尽くすべき相手。いや、()()()()()()()()()であるからだ。

(こちらでもまた思いがぶつかり合っている……)

 ユーリと彼の両親がそうであったように。

「色目って、そんな言い方……」

「坊ちゃんは生涯をかけて剣術を極めるお覚悟でいらっしゃるんだ。お前のその気持ちは迷惑でしかねーんだよ」

「え゛っ!? なっ、何それ?」

 ミラの目がエレノアと隊長に向く。エレノアは知らない。だが、隊長はその事情を把握していたようだ。

「ああ。ゼフの言う通りだ」

「そんなの……寂しいじゃないですか」

「ミラ……」

「そうでもねえよ」

 レイが擁護に出る。ゼフは「待ってました!」と言わんばかりに瞳を輝かせた。

「『高み』何てものは目指し出したらキリがない。中途半端な位置にいればいるほど欲が出てくる。課題は山積。時間は有限。……ともすれば、切り捨てねえといけねえモンも出てくんだろう」

「そんな……」

「俺から見てもウィリアム殿の覚悟は本物だ。悪いことは言わねえからさっさと手を引け」

 レイは口にしなかったが、『λ(ラムダ)』であることも恋愛や婚姻を遠ざける要因になっているのではないかと思う。

 『λ』の才は別名『一世代限りの才』と呼ばれている。『λ』が台頭し始めて40年。未だかつて『λ』の才が実子に継承されたケースは確認されていないのだ。

 故に家庭を持つことへのメリット、必要性を感じない。才の継承がなされない分、『高み』に執着する傾向にあるのではないかと思えてならない。

「……エレノア様は違いますよね? 男の人だけ?」

「バカ。聖女様は『Ω(オメガ)』だ」

「何か違うんですか?」

「『Ω』の認定を受けた者には『継承の義務』が生じるの」

「それって……」

「ええ、そうよ。結婚して、沢山の子を産む。それが全『Ω』に課せられた義務です」

 『Ω』は血筋由来の才能だ。その才は子に引き継がれていく。ただ、その確率は非常に低く、必然的に多産であることを求められる。

 故に結ばれない。ユーリを待つことは出来ないのだ。

「ひどい……」

 ミラは顔を俯かせた。その肩は小刻みに震えている。同情してくれているのだろう。『λ』に比べあまりにも不自由であると。

(優しい子)

 エレノアは胸を温めつつミラの肩に触れる。
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