余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「それでもね、わたくしなりに足掻いてみようと思っているの」

 ミラが顔を上げる。恐る恐る。不安気な表情で。

 エレノアは自身の胸の前で両手を組んだ。魔法陣、オーラこそ出ていないものの、その姿は聖女の名にふさわしく神々しくも清らかで。

「この命続く限り、患者様をお救いする。それがわたくしの夢ですから」

 ミラを始め他の騎士達も息を呑んだ。それが何だか妙に気恥ずかしくて、エレノアは小さく咳払いをした。

「聖女様、皆様方」

 門の前には伯爵と老齢の家令の姿があった。いつの間にやら領主邸に辿り着いていたようだ。

 話しの途中だが切り上げざるを得ない。エレノアはミラに目礼して伯爵と向き直る。

「ペンバートン卿。ご厚意に感謝申し上げます」

「とんでもございません。感謝申し上げるべきはこちらの方です。どうぞこちらへ。ごゆるりと――」

「お待ちください」

「えっ?」

 レイが制止をかけた。そしてそのまま列の先頭へ。凄まじい剣幕で伯爵の前に立つ。

「これはこれは賢者殿。いかがなさいました?」

「……お前は何だ? 人間か? それとも魔物か?」

 一行に緊張が走る。騎士達は瞬時に臨戦態勢に入った。そんな中でエレノアだけが気持ちを整理出来ずにいる。

(どういうこと? あのお方は伯爵ではないの……?)

 何者かが(ふん)しているのだとしたら相当な腕前だ。小柄でふくよかな体形。慈愛に満ちた面差し。やはりどこからどう見ても伯爵だ。偽物だとは到底思えない。

「はて? 何のことでしょう?」

「……目的は何だ?」

「困りましたな。私にも分かるようご質問いただきませんと」

「…………」

 (らち)が明かない。そう思ってのことだろう。レイは大きく舌打ちをして――伯爵に手を向けた。

「ぐああぁあああああッ!?」

 家令が伯爵を庇った。閃光と共に上がる悲鳴。戦慄く全身。十中八九あれは電魔法だろう。

「なっ……!?」

 レイにとっても想定外のことであったらしく、茫然(ぼうぜん)としている。

「旦那、さま……っ」

 家令の体が崩れ落ちる。けれど、地に伏すことがなかった。

(浮いている? あれは……紐……?)

 よくよく見てみると、家令の腰に黒い紐状の物が(くく)りつけられていた。

「くっくっく……(むご)いことをする」

「伯爵……?」

 禍々しい紫色のオーラと共に伯爵の人好きのする笑顔が歪んでいく。非情で残忍なものへと。
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