余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「闇魔法!?」

「っち、魔物か」

 紫色のオーラは闇属性固有のもの。

 こと人族において、未だかつて闇属性を扱える者は確認されていない。故に消去法で『魔物』と判断されたというわけだ。

(操られているの? それとも化けているの?)

「っ!」

 家令の体が地面に転がる。エレノアは急ぎ『祈り』を捧げた。

(良かった……)

 傷は塞がり呼吸も安定した。とはいえ依然意識は失われたままだ。彼はまだ魔物の近くに。折を見て救出をしなければならない。

「流石だ。『大聖女』の位は伊達ではないな」

「大聖女……?」

 この国における女性聖職者の最上位格は『聖女』だ。『大聖女』なる資格を持つ者は誰一人として存在していない。

「何? ……くっくっく、そういうことか。とことん腐っているようだな。あるいは()()()()なのか」

「その程度……?」

「吾輩は貴様らで言うところの『(けい)眼』を有している。誤魔化しは効かんぞ」

 『慧眼』とは対象の能力を数値化⇒適性を推し量ることが出来る能力だ。

 王族固有の才とされ、唯一『λ(ラムダ)』が確認されていない特異なジョブでもある。

「人族の通説に当てはめると、伯爵の自由を奪っているあの魔物もまた()()()()()()ということに……? まさか……それで人語を話せるの?」

 皆に動揺が走る。魔物は何も答えず、伯爵の顔でただ妖しく(わら)うのみだ。

「では、始めようか『闇と光の輪舞』を」

 魔物の背後から黒い腕のようなものが生えてきた。数にして五本。紫色のオーラを放っている。まるで死霊のようだ。あまりの(おぞ)ましさに背筋が震える。

「賢者殿、おさがりください」

「ああ、悪いな」

 レイの前に一人の重騎士が立つ。魔術師は火力自慢ではあるものの防御は不得手であるから。

「はあぁあ!!!」

 騎士が黒い腕のようなものを切断。家令を救出した。

「きゃっ!?」

 それと同時に伯爵が氷漬けになった。術者はレイだ。まるで加減をしていない。

「ダメです、レイ!! そんなことをしては伯爵が――」

「アイツは危険です。ここで始末しな――っ!!?」

「ガハッ!!?」

「レイ!!!? マイケル!!!」

 何かが砕け散るような音が響いた直後、レイの腹が破られた。見れば彼を守る騎士・マイケルも貫かれている。

 同じ腕だ。マイケルの体を貫いた腕が、レイの背から出ている。
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