余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「ぐっ、……の野郎……っ」

 エレノアは直ぐさま祈りを捧げた。レイとマイケルを襲った腕は消え、傷も塞がる。

「久しいな、()()()()()()()……いや、レイモンドよ。今や『大賢者』か。老いるばかりか更に力を付けるとはな」

 飛び散ったガラス片のような氷が夕日を受けて(きら)めく。魔物は変わらず伯爵の姿のままだ。

「あ? 何だよ。知り合いか?」

「吾輩を覚えておらぬと言うのか? 10年前『古代樹の森』で死闘を繰り広げたであろう」

「……っ!?」

「っふ、思い出したか?」

「お前は……っ、何故(なぜ)だ! お前は師匠が確かに――っ」

「ああ。死にかけたとも。()()()()()()()()()()

 隊長の指示を受けて、前衛の騎士達が魔物に斬りかかる。だが事態はまるで好転しない。二の舞いだ。一人、また一人と倒れていく。

「大賢者エルヴェ・ロベール。失うには惜しい男だったな」

「~~っ、テメェ!!」

 戦闘が再開する。
 
 治しても治しても傷が広がっていく。

 苦痛に喘ぐ声。

 血に染まる芝。

 ――失われていく。

 刻一刻と。

 かけがえのない命が。

「~~っ、神よ! どうかわたくしに力を……っ、力をお与えください!!!」

「エレノア様……っ」

 無力感に(さいな)まれていく。この場にいたのが、至高の才を持つ兄・セオドアであったのなら、あるいは皆の命を繋ぐことが出来たのだろうか。

「聖女様」

 声をかけてきたのはゼフだった。とても穏やかな顔をしている。状況に対してあまりにも不釣り合いだ。
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