余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「……っ」

 嫌な予感がした。とてつもなく嫌な予感が。

「ミラと共にお逃げください」

「そんな――」

「おいっ、ミラ! 何ボケっとしてんだ」

 ミラは深く唇を噛み締めた。手にした二本の剣が小刻みに震えている。葛藤しているのだろう。

 護衛として取るべき選択は、エレノアを連れて逃げることだ。しかしながら、仲間としての意識が、これまで積み重ねてきた日々がそれを阻む。

 彼女にとって最早この一団は欠かすことの出来ない居場所なのだろう。

「アタシ……っ、アタシ……、には……っ」

「しっかりしろ。お前だけが頼りだ」

 ゼフは振り向きざまに黒い腕を斬り落とした。

 エレノアとミラに対して背を向けるような格好に。一つにまとめられた薄茶色の長い髪が左右に揺れる。

「聖女様。不躾ながらお願いがございます。聞いていただけますか?」

 彼は既に死を覚悟しているのだろう。聞きたくない。けれど、聞かなければならない。エレノアは何も言えずにただ顔を(うつむ)かせる。

「坊ちゃんにお伝えいただきたいのです。ただ一言『諦めるな』と

「何を……?」

「坊ちゃんであればお分かりになるはずです。……ミラ、お前でもいいからな。必ず伝えてくれ」

「~~っ、ぜっ、ゼフさん! 嫌です! アタシは――」

「ああ、それと……俺が『坊ちゃん呼び』をしていたことも。変わらず伏せておいてもらえると助かります」

 魔物の口角が上がった。(あざけ)るように。したり顔で。

「これでも改める気はあったんですよ。いずれは、いつかは……ってそう思ってたんですけど……」

 ゼフは苦笑一つに緑色の魔法陣を展開。自身に魔法をかけた。治癒魔法の応用――身体強化だ。

 治癒術師もまた魔術師のように自身や武器を魔法で保護することが出来ない。代わりにああして肉体を強化して戦う。ミラも同様だ。

「ダメよ!! ゼフ――」

「勇ましいな『大治癒術士』ゼフよ」

「は? ははっ、何だそりゃ。随分とまぁ高く買ってくれるんだな」

 黒い腕がゼフに襲い掛かる。かなりの速さだが実に見事に応戦している。得物である槍は勿論、長い脚も駆使して。まさに剣舞。勇猛でありながら美しくもあって。

「くっくっく……実に惜しい。……が、それだけに良い『(にえ)』となる」

「贄だ? っは、ごめんだね――」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、であったとしてもか?」

「はっ……?」

 ゼフの動きが鈍った。魔物はその隙を逃さず――黒い腕を伸ばす。
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