余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「エレノアを返せ!!!!」

「っ! ユーリ!! 待て!!」

 ユーリが駆け寄ってくる。団長の制止を振り切るようにして。栗色の瞳は怒りで燃えている。我を失っているようだ。

『ユーリ!!! 来てはダメ!!!!!』

「良い機会だ。一つ試すとしよう」

 魔物は口角を上げるとふわりと宙に浮いた。みるみる内に皆の姿が遠ざかっていく。

『一体何を――』

「まぁ、見ていろ」

『っ!!!???』

 直後、村が消し飛んだ。鼓膜を破らんばかりの爆音と爆風と共に。

『なっ……あっ……何ってこと……』

 領主邸があった丘は潰れ、半径50メートル以内には何もない。周囲には瓦礫や、へし折れたポプラの木々、村人や団長を始めとした自警団員達の死体や、家畜と思われる死骸が転がっていた。

『惨い……惨過ぎるわ』

「どこを見ている。あれを見ろ」

『っ!』

 不意に光を感じた。弱弱しくも優しい光を。

(ユーリ!!?)

 見ればちょうど真下のあたりに赤毛の小さな体が転がっていた。全身傷だらけ、頭からは血を流しているが確かに生きている。

「齢10にして、まったく頼もしい限りだな」

 他に生きている者はいないか。エレノアは決死の思いで目を走らせる。

「勇者だけではない。大賢者も生きているぞ」

『レイが!?』

「フォーサイスと言ったか? その者の屋敷に飛ばした」

『助けたと言うの? 貴方が???』

「ああ。手心を加えた。死にはしないだろう」

『手心? 何故……?』

()()()()()()()()()()()()。今、殺すには惜しい」

 頭の奥が熱くなった。眩暈すら覚える。これは怒りだ。涙と激情が込み上げてくる。

『無価値だと言うの? 貴方が散らした一つ一つの命が――』

「っふ、あれも無価値だと、そう思っていたのだがな。くっくっく……」

 魔物の視線を辿る。そこには瓦礫の山があった。積み上がった壁の一つがカタカタと揺れて――細い腕が出てくる。
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