余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「『修羅(しゅら)』とは『狂戦士』を指す言葉だ。奴らは()()()()()()()ことでリミッターを解除。潜在域に至るまで力を発揮することが出来る」

『理性の喪失? ……っ!? まさか精神を、ビルの精神を破壊しようと言うの?』

「そうだ。悲しみ、憎しみ……()()()()()()(もっ)てしてな」

『させません! そんなこと――』

「っふ、貴様に何が出来る?」

『っ!』

 痛感する。自身が置かれた苦境を。

 捕らわれの身。

 自衛で手一杯。拘束具である黒水晶にはヒビ一つ入れられていない。悪魔の手の平の上で転がされているような状況だ。

(不甲斐ない……っ、不甲斐ないわ……)

 エレノアは堪らず唇を噛み締める。

「そう。それでいい」

「ミラ! ユーリ!!」

 ビルは二人の前に立った。彼らを庇うようにして悪魔と対峙する。

「ビルさん! うっ、腕が」

 ミラの指摘通りビルのベージュ色のチュニック――右上腕のあたりには血が(にじ)んでいた。

「大丈夫。回復薬はもう飲んだ。血で汚れてるけど、痛みはもうないから」

「そっ、そうなんですね! 良かった~」

「くっくっく、見事だ。大剣聖ウィリアム・キャボットよ。単騎で()の者を。加えてその程度の負傷で討ち取るとは」

 ビルの目が大きく見開く。視線の先にいるのはあの悪魔だ。彼もまた初めてであるのかもしれない。人語を操る魔物を目にしたのは。

「褒美を取らそう」

「きゃっ!? なっ、何……?」

 何かが落下した。黒い物体。獣であるようだ。ゴリラを思わせるような筋骨隆々な肉体、黒い(たてがみ)、背中からはドラゴンを思わせるような黒い翼が生えていた。
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