余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「『黒獅子』」

 ミラとエレノアの声が重なった。対する悪魔は満足げに肯定する。

「そうだ。大剣聖、貴様が今しがた(ほふ)った(くだん)の獣だ。褒美としてくれてやろう」

 ビルの萌黄色の瞳が怒気に染まる。彼にとって『黒獅子』は因縁深い魔物。後悔の権化(ごんげ)であるからだ。

 仲間を信頼した結果、その仲間を失った。

 そんな凄惨な過去を思い起こさせるような存在であるから。

(この悪魔もあの一件にも関わっているの? あるいはこれもまた『(けい)眼』の力? 過去まで見通すことが出来るの? ……いずれにしても不可解だわ。一体何を企んで……)

 レイの命を繋ぎ、ビルの覚醒を促す。軍事の観点から見れば王国側にはメリットしかない。敵に塩を送るようなものだ。

(単なる暇つぶし? あるいは他に何か――)

「大勇者ハーヴィー・フォーサイス、剣聖アーサー・フォーサイスの墓前にでも手向けるが良い」

「ハーヴィー様はご存命だ」

「死したも同然であろう」

「~~っ、貴様!!!」

 ビルの怒気は殺気に変わった。その対象は間違いなくこの悪魔だ。

(分かっている。分かっているわ。なのに……)

 ――恐ろしい。

 率直にそう思ってしまった。

(これが修羅になる、ということなの?)

「良い顔をする。くっくっく……気に入った。これもやろう」

 悪魔が黒水晶を放った。ビルは警戒してかサーベルを構える。

『いけない! その中にはゼフが――』

 ビルがサーベルを振りかざす。それと同時に悪魔が指を鳴らした。
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