煙草を吸う女
 彼女の部屋は二階のようで、階段を使って引きづるように彼女の身体を支えた。部屋の前に着くなり、彼女の帰巣本能がそうさせるのか直ぐに紺色のキーケースを取り出し、がちゃりと扉を開けた。

 ……広い。

 てっきりワンルームかと思っていたが、2LDKはある。家具は少ないし、一人で住むには十分すぎる間取りだ。俺はたらりと嫌な予感が胸をしめた。ひとつ自分にもかまをかけるように、沢口に聞いた。

「今日煙草持ってきてなくて、もらっていい?」
「うん、いいよ」

 抵抗なく差し出されたことが俺を打ちのめした。そしてひとつの覚悟を決めたと言ってもいい。沢口さんの夢は昔の現実で、とっくに叶わないことなのだ。おれはライターとそれを持って、ベランダに行く。口に咥え、ライターの火をつける。煙が上に舞い、口の中に煙が溜まる。げほげほ、と思いっきり噎せて涙が出た。苦い。あんまりにも苦い。

 様子を見に来た沢口さんが後ろから抱き着いた。背中に頭を埋め、ぐりぐりと「嬉しいな」と言った。俺は振り返って、背を丸めてキスをした。軽く触れるだけのキスだ。夢心地の彼女、覚めてほしいとどこかで願いながらのキスだった。彼女は嬉しそうに腕を掴んで、目を細めた。俺はやっぱりという気持ちで、先ほどの覚悟を結びなおした。
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