情愛漂う財閥社長は、一途に不遇女子を寵愛する。
夕方、八尋さんが迎えに来たので酒井家本邸に残る管理をしてくださる執事に任せて新居に帰宅した。
新居は高級住宅街にあるタワマンでまだまだ慣れないけど、八尋さんと一緒にいられるからそれだけで幸せだ。
「夕食、急いで作りますね」
「俺が作るよ、優菜ちゃん慣れないことばかりで疲れてるでしょ。任せて座っててよ」
「ありがとうございます……でも、八尋さんも疲れてるんじゃないですか? 一緒にやりましょう、そしたら早く食べられますよ」
八尋さんも一人暮らしが長かったからか自炊は完璧で、彼の料理はとても美味しい。
だから手伝うなんて烏滸がましいかなって思うけど、二人でやれば早く終わるからお屋敷を出た後は休日は一緒に作っているからきっと大丈夫だと思いたい。
「今日は何つくるの?」
「オムライスだよ。卵を今いろんな場所の養鶏場を回って仕入れていてね、それで沢山もらったんだ。濃厚だからぜひ優菜ちゃんにも食べて欲しくて」
「そうなんですか? 嬉しいです……あっ、これ、もしかしてベリーズ養鶏場ですよね?」
「そうだよ、知ってるの?」
「はい。少し勉強して……少しくらいは役に立てたらと思って、桜野さんにいろいろ教えてもらいました」
「……桜野に? いつ会ったの?」
「えっと、両親たちの手続きとかでお世話になったので酒蔵の近くの喫茶店でお礼をした時です。幼なじみなんですね、沢山八尋さんのこと教えていただきました」
そう言えば八尋さんは何故か考え込んで小さな声で何かをぶつぶつ言っていた。
「……ねぇ、優菜ちゃん。キスしていいかな」
「今、ですか!?」
「うん。もちろん」
そう八尋さんは言うと、私の頬に触れて唇同士を重ねた。