もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜






 ダミアーノ・ヴィッツィオは、これまでにない酷い屈辱感を味わっていた。彼の記憶には残っていはいないが、それは過去六回で一番の辱めだった。

「あのクソビッチが……!」

 全身から溢れ出る怒りは収まらず、手元の分厚い本を花瓶に投げ付ける。
 しかしいくら物を壊しても、彼の心は嵐の海のように荒れ狂ったままだった。

 キアラ・リグリーア……あの汚らわしい女は二股をかけていた。
 しかも、あろうことか公爵令息と皇太子に!

(あんな地味で冴えなくて馬鹿で身分も低い女に、このオレが騙され続けていたとは……!)

 それは彼にとっての、初めての挫折(・・)でもあった。
 自分は元婚約者と皇太子に、まんまと嵌められたのだ――と。

 皇后から下賜された魅了魔法の魔道具は、婚約者には効かなかった。
 きっと皇太子が邪魔をしていたからに違いない。あの二人は結託して自分を陥れていたのだ。
 ずっと。ずっと。ずっと。

 今度は戸棚のガラスがガシャリと割れた。度重なる破壊に、ヴィッツィオ家の使用人たちはもう見て見ぬ振りだ。

「くそっ……! いつからだ……!?」

 少なくとも、キアラのブティック開店の日には二人は通じていたに違いない。あの爆発も、全て皇太子がやったことだろう。

 ……その前は、凱旋パーティー?

 あの夜は確実にキアラに魅了魔法がかかったと思って、安心して一度外へ出て、戻った時には彼女は部屋にいなかった。
 そして衝撃音のようなものが聞こえて現場に行ってみると、キアラと……なぜか皇太子が一緒にいた。なので、魅了魔法を解いたのも皇太子なのだろう。

(あの時点で既に二人は不貞を行っていた……? だが、いつ出会ったんだ?)
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