龍神様のお菓子

いや、ふざけんな

「よう」

昼下がりの午後、渡り廊下で夢香に声をかけた昴は額から流れ出る大量の汗をタオルで拭き取った。

「あ、昴くん」

声をかけられ夢香は、にっこり微笑むと昴のスポーツウェア姿にパチクリと瞬きをする。

「凄い汗だね、体育?」

 一年生は必修授業で体育を専攻する必要があるのだが、それにしては溢れ出る汗の量が尋常ではない。

「いや、午後の授業ねぇから体育館で自主練してた」

「自主練ってそんなに汗かくものなの?」

「タイミング悪く先輩とエンカウントして、そのまま…」

どうやら、同じ部の先輩にしごかれていたらしい。

「はは、それはお疲れ様」

「お前は?」

「私はこれから移動授業」

夢香はそう言うと真新しい教科書を見せる。

「そうか、頑張れよ」

「うん、ありがとう。あ、そうだ昴くん」

「?」

「実はこの前言ってたバイトのことなんだけど…」

「バイト?あぁ、和菓子屋の…」

「あれ、実は辞めることになっちゃって」

夢香は申し訳なそうに「面接の話しは無しの方向でお願いします…」と両手を合わせて謝罪した。

「ま、いいけど、そもそもあの店長が俺を採用するとは思えねぇし…」

「ほんとごめんね」

「まぁやめて正解じゃね?あの銀髪野郎どう見ても怪しかったし…」

昴はそう言うと「じゃあな」と言って去っていった。
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