助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 メルとラルドリスは列に並んでいくつかの軽食を買い、人の流れから少し外れて、路地の壁によりかかりながら食事を始めた。ラルドリスはあまりこういう立ち食いじみた行動は慣れないようで、難しい顔をしながら小さくかぶり付いては首を捻った。だが、そこは王族。仕草にそこはかとなく気品があり、どことなく立食パーティーにでも招かれているような風情がある。

「味付けが濃いな。それに、なんとも落ち着かん……テーブルと椅子でゆっくり味わいたいところなんだが……」
「お祭りの食事は雰囲気と一緒に楽しむものですから。あまり細かいことは気にせず、周りの風景や人々の笑顔を肴に、ゆっくり楽しめばいいのですよ」

 品のあるラルドリスが親指に着いたソースを(ねぶ)ると妙に艶っぽく、メルはざわついた気持ちを落ち着かせようと雑踏に視線を逃した。すると自然とよく目に入るのは、親子連れの姿だ。

『ねーお母さん、次はあれ! あれ食べるのぉ!』
『さっきお菓子をあんなに食べたばっかりじゃない! もう……あんまりはしゃぐんじゃありません。怪我でもしたら帰るからね?』
(そうだった……。私も、おばあちゃんと……)

 子供のはしゃぐ姿に昔の自分が重なった。サンチノの街でも小さな祭りはたまにあって、祖母が元気であった頃、メルもよく連れて行ってもらったものだ。
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