助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 同時に、「お食事をお持ちいたしました!」と外から兵士たちの声が掛かった。
 ラルドリスはスタスタと入り口に向かい、垂れ幕を引き上げた。

「おし、こちらに渡せ」
「で、殿下!? いえいえ、あなた様に給仕の真似事などさせるわけには……」
「ラルドリス様、ここは私が運びますから!」
「畏まった場では無いんだし、動けるやつがやればいいだろ。冷めないうちにとっとと食いたいんだよ、俺は――」
「本当に、若者の成長は目覚ましいものであるな……」
「おやおや……」

 感極まったモゼウがぐっと目頭を摘まみ、寝転がったままシーベルがその背中に言葉を掛けた。

「では本日は、酒豪と名高い伯爵の飲みっぷりでも、披露して頂くとしますか」
「ふわはは……先に眠ってしまわないで下されよ。これまでの愚痴を話す相手がいなくてはつまらんからな」

 どちらが運ぶだのどこに座るだの、なおも議論する王子と魔女の周りで、ささやかな酒宴の準備は着々と進められ……そしてその天幕では夜遅くまで、和やかな笑いが大きく響き渡ったのだった。
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