助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

やっと……

 それから、瞬く間にひと月ほどの時間が過ぎた。
 王城の中庭で、青い空の元早春の気配を運ぶ風が、メルの髪を弄ぶ。
 まだ肌寒くはあるが、陽射しは温かく、メルはしばしそれを背中に受け、じんわりとした温かさを楽しんでいた。

「行っておいで」
「チュイ!」

 傷が治り元気になったチタを放してやると、彼は木々の隙間に消えてゆく。やはり人馴れしているといっても、自然の中が彼の居場所なのだ。
 それを見送るメルの背中を、名前を呼ぶ短い声が叩いた。

「メル」
「ラルドリス様」

 顔を上げると、肩が触れ合うほどの隣に並び、覗き込むようにしてきたラルドリスと目が合う。

「済まなかったな。あれから忙しくて、十分に相手もしてやれなくて」
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