助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 どうやら、小さな髪留めに細工をしていたらしく、そこに隠した毒薬を口に含み命を断ったらしかった。傍らには【自分の遺体は野にでも打ち捨て、決して侯爵家に返さぬようお願いしたい】と一筆が添えられ、死に顔は安らかだったという。

 ラルドリスの恩情でその遺体は王城の一角にある墓地に埋葬された。メルは埋葬の時だけそれに立ち会い、以後は一度も寄れていない。なんとなく姉がそれを望まない気がしたから。気持ちが落ち着けば花を供えたいとも思うが、それが、いつになるかはわからない。
 
「ならばなにも言うまいな……。さて、少し座って話でもしないか?」
「いいですけど、改まってなんです?」

 ラルドリスは一角にある木製のベンチを指差す。
 メルは素直に従い、彼の隣に腰掛けた。

「ザハールは、ティーラが死んだことを聞いて、愕然としていたよ。今回の事件を主導していたこともあり、身分を剥奪されて僻地へと送られ、長く労役に就かされるのだそうだ。魔術師も一緒にな」
「……いつか彼らは、本当のことを話し合える時が来るんでしょうか」
「わからないな、それは……」
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