助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「ふふふ……はははは」

 メルもなんだか堪らなくなって、ラルドリスの身体に寄りかかると大声で笑い出した。
 こうしているだけで、なんて幸せなんだろう。
 喜びが溢れて、力が湧いて、どんなことだって、やれそうな気がしてくる。

「さあ、中に入れてくれるか。久しぶりに手料理をふるまってくれるんだろ? 楽しみだ……俺も手伝う」
「ふふっ……なら、ラルドリス様は野菜を洗ってください」
「よしきた」

 彼は腕まくりをして、頼もしくそれに答える……。
 


 ――こうして、メルには新しい家族が増え、数日後彼女はナセラ森を立った。祖母が寂しくないよう、また何度でも訪れる約束をして。
 チタは魔女の家の軒下に巣を作り、番を作って、子育てを頑張っているようだ。
 それ以来、森の中の魔女の家はひっそりと佇み続けている。時々街の方からやって来る人々の憩いの場となって。
 そして小さな墓には、いつも誰かが供え物を置いてゆき、祈りを捧げる。

 その内にある言い伝えがこの地方には広がっていた。
 なにか悲しいことがあった時、この森に来て祈れば、優しい魔女の魂が寄り添って、素敵な助言を授けてくれるのだと――。

(おしまい)
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