助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「おや、なにかお探しですか?」
「ええ。火を起こすものがあれば軽いスープくらいは作れるかなと」
「それはありがたい。なら、この辺りに……」

 ごそごそと荷台を探るシーベルが見つけたのは、鉄の鍋とそれを支える焚火台だ。

「これでどうですか?」
「十分です。よし……せっかく近くに森が有りますし、私、なにか食べれるものでも探して来ますね」
「それは助かる。ならば火は私が起こしておきましょう」
「早く頼むぞ~……」

 冷えた手をこすり合わせ、手伝う気はさらさらなさそうなラルドリスを見て、顔を見合わせたメルとシーベルは外に出てそれぞれの仕事をこなし始める。

「では、お気をつけて。食材の調達はお任せしますが、あまり遠くに行き過ぎないように」
「はい。行ってきます」

 シーベルは高い身分のわりに従軍の経験でもあるのか、手早く辺りに転がる石で簡単な竈を作りだす。彼に手を振られ、荷台にあった平たい籠を抱えるとメルは歩き出した。見通しの良い平原の奥には、ちょっとした林が広がっている。あそこなら……。
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