腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「いやぁ、わざわざありがとう。ここまで見送りに来てくれて」


「……別に」


「じゃ、帰るから……バイバイ隼瀬君」



そう言って自分の家へ帰ろうと隼瀬君に背を向けると、いきなり腕をガシッと強い力で掴まれる。



「いっ……?!えっ!?な、なに!?」


「…………あ、……悪い…」


隼瀬君自身も自分のした行動に驚いているのか、目を丸くしてバツが悪そうに視線を逸らした。



「なんでもない……」


「な、なんでもないのに腕引っ張らないでよ…じゃ、本当に帰るからね?」


「………」


「……あの、腕を離してもらっても……?」


帰るって言ってるのに、中々腕を離してくれない。

何がしたいのか分からなくて訝しげに隼瀬君を覗き込むと、何とも言えない表情で俯く隼瀬君が居た。

言いたいことがあるのか無いのかハッキリしない彼の表情に、私もただ黙って彼の行動を待つしか出来なかった。



「………強制は出来ないのは、分かってる」


「うん」


「だけど、なるべくまた来て欲しい……」


「……それだけ?」



ようやく話したと思ったらそれだけなんて、肩透かしを食らったような気分だ。



「来るって何回も言ってるじゃん!心配症だなぁ…」


「……もし、お前の身になにかあっても、お前はまた来てくれるのか?」


「来る来る、任せてよ」



さっさと帰りたいのに、意外と執拗いんだなぁ、隼瀬君。

この問答を早く終わらせたくて適当に相槌を打つと、私の言葉を聞いた隼瀬君はバッと顔を上げた。
そして、まるで花が咲いたように美しく微笑んだ。


「約束だからな、恵留」




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