めぐるの耽溺日誌


「俺と付き合ってくれるよね、雪平さん」


「……ぅ……、」


「言っとくけど、断って俺の言ってたこと他のやつに言ったら、ノートの内容全部ばら撒くからね」


「な……っ!?」


「ほら、写真撮っちゃった」



そう言って私にスマホの画面を見せつけた。

そこには、私の向坂君に対する想いを綴った文字がびっしりと書かれたものが映っていた。

紛れもなく、私のノートに書いたものだ。

それだけじゃないと言うように、指で画面をスライドしていくと、他の人の観察していた内容などが全て写真に撮られていたようだった。


あまりの行動に開いた口が塞がらない。


彼がしてる事は、完全に脅しだ。



「バレたら困るんじゃない?俺は気にしてないけど、他の人はこれを見たらどう思うんだろう」


「……お、脅してるってこと……?」


「好きに捉えたら良いよ。それでどうするの?」




彼のやってる事は最低だ。

私のノートを勝手に見て、断ればそれをバラまいてやると言っているのだから。


普通なら幻滅して、絶望に打ちひしがれるのかもしれない。

でも、私の頭の中はそうじゃなかった。



「向坂君、そんな人だったんだ」


「そうだよ。幻滅しちゃった?」




目を細めて微笑する彼にずっと胸が高鳴っていた。

だって、向坂君の新しい一面を私だけが知れたんだから。



「ううん、向坂君……私、嬉しい。付き合えたら、向坂君のこと、もっと知れるんだから」




私の言葉が予想外だったのか、向坂君は驚きで目を丸くしている。

そんな向坂君も可愛くて好きだと思ってしまう私は、やっぱりどこかおかしいのだろうか。




「向坂君、よろしくお願いします」




彼の手を取り、ぎゅっと握りしめる。


向坂君の手は氷のように冷たかった。

美しく細長い手だけど、触ってみると少し骨張っていて、当たり前だけど男の人の手なんだなぁって思った。

ノートを返して貰ったら急いで書かないと。



彼は私の目をジッと見つめたあと、ゆっくりと笑みを作り、私の手を握り返した。

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