恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
九月半ばのとある土曜の夜。

胡桃は壱世の家で過ごしていた。
最近は十玖子のところへ行った後は彼の家に行くのがお決まりになっている。

「明日、どこかドライブにでも行こうか」

夕飯を食べ終え、二人でソファに座ってのんびりしていると壱世が言った。

「え? いいんですか?」
クッションを抱きしめながら胡桃が言う。

「いいって、何で?」
「だって壱世さん、最近忙しそうじゃないですか……わっ」
心配する胡桃の頭を壱世は髪がクシャクシャっとなるように撫でる。

「疲れてるから、胡桃が楽しそうにしてるところが見たい」
イタズラっぽく笑って言う壱世に、胡桃はキュンとする。

「それなら近場でいいですよ。ベリが丘だってまだまだ楽しいところがありますから」
「俺と胡桃がベリが丘でデートすると、何かと気をつかうだろ?」

市長の壱世はもちろん、胡桃もベリが丘ではどこで見られているかわからない存在だ。

「〝リス君〟なんて呼ばれるのはこりごりだしな」
彼は苦笑いで言う。

二人の婚約についてはお互いの両親への対面での挨拶を済ませてから公にする予定で、秘密とまではいかないまでもあまり目立つようなことはしたくないと考えている。

「隣街にでも行こうか」
「隣街ってベリ野? ……あ、行きたいです!」
胡桃の表情が明るくなったのを見て、壱世はクスッと笑う。

「もう楽しそうだな」
「だって、ベリ野には——っん……」
言いかけた胡桃の唇を壱世が塞ぐ。

「……おでかけの予定、立てないんですか?」
胡桃はクッション越しに困ったように眉を下げる。

「艶っぽいところが見たくなった」
そう言って彼は熱っぽい瞳で胡桃を見つめると、手を取って口づけた。


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