恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
翌日・日曜日。

二人は壱世の車でベリが丘の隣街・ベリ野を訪れていた。

モダンでスタイリッシュな街並みのベリが丘とは雰囲気が違い、歴史ある寺や旧跡などもある小京都のような街だ。

「ベリ野はベリが丘とは違った良さがありますね。隣なのに旅行に来たみたい」
久しぶりに訪れたベリ野の街並みに、胡桃は目を輝かせる。

「メガネ無しの壱世さんとデートできて嬉しいです」
手をつないで嬉しそうな胡桃に、壱世が微笑む。

「ベリ野にも詳しいのか?」
「さすがにベリが丘ほどではないですけど、食べ物屋さんを中心に少しだけ」
「詳しそうだな」

壱世の予想通り、胡桃はベリ野の街にも人並み以上に詳しかった。
有名な文豪が過ごした屋敷や大きな寺といった定番の名所だけでなく、季節ごとの花の美しい小さな寺や、路地裏にある和風の雑貨店、隠れ家的な手作りジャムのお店などにも壱世を案内した。

「たしかこの辺りのはずなんですけど……」
駅前の大通りから一本入った裏道で、胡桃がキョロキョロと辺りを見回す。

「何が?」
「私の好きなパン屋さんが、少し前にベリ野に移転しちゃって。この通りに……あ!」
胡桃の目に、見覚えのある文字が映る。

「櫻坂の近くにあった、さくらベーカリーさん。ベリビの元スポンサーです」

「さすが、隣街に来てもベリが丘か……」
「呆れてます?」
「少し」
笑う壱世に、胡桃は不満げに眉を寄せた。

「いらっしゃいませ〜」

木製のドアを開けると、「カランカラン」というベルの音と店員の声が二人を迎える。

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