恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
(わあ……この感じ、すでに懐かしい)

ドアは少し変わってしまったが、ベルの音はベリが丘時代と同じだ。

「ここのチョコチップメロンパンが私の大好物です」
「へえ」

「ちなみに、柚木さんに聞いたら栗須家の食パンもさくらベーカリーさんだったらしいです」
「俺より栗須の食卓に詳しいな」
「とにかく、それくらい親しまれてたパン屋さんなんです。なのに急に移転しちゃって」

十玖子に聞いた木菟屋の移転の話を思い出して、少し悲しくなってしまう。
それでも気を取り直して、胡桃はパンを選びはじめた。

(チョコチップメロンパンとプレーンのメロンパンはマストでしょ? それからソーセージロールとくるみパンとチーズ……あ、アップルパイもおいしいんだよね)

「正気か?」
「え?」

棚から躊躇なくパンを取っていく胡桃のトレーは、気づけば山盛りだ。

「ひさびさに来れて嬉しいのはわかるが、さすがに買いすぎじゃないか?」
「これが普段通りですけど」
胡桃はキョトンとした顔で言う。

「あれ? 江田さん?」
背後から声をかけられ、胡桃は振り返る。

柿崎(かきざき)さん! お久しぶりです」
「江田さんみたいにトレーに山盛りのお客さんがいるなと思ったら、江田さんだったわね。その山盛りがすでに懐かしいわね」
レジに立つ女性が胡桃を見てクスクスと笑う。
エプロン姿で四十代くらいの見た目をしている。

当然ベリビで取材をしたこともある胡桃は、さくらベーカリーの店員とも顔見知りだ。
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