恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
「急に移転しちゃって寂しいです」
レジで胡桃が柿崎に言う。

「私たちもすごく迷ったのよ。あの場所で長くやってたから」
パンを手際よく包みながら、柿崎が答える。

「だけど市の計画だって言われちゃったらね〜」
「え?」

「もしかしてまだオフレコだったかしら。櫻坂近辺の再開発」
「再開発? 櫻坂近辺の?」
そう聞き返したのは壱世だった。

突然の質問に柿崎が少し驚いて彼の方に視線をやる。
そして顔を見てさらに驚く。

「え!? もしかして栗須市長!?」
「こんにちは」
壱世がペコっと会釈をする。

「江田さん、すごいイケメン連れてるなって思ったら! え!? そういうこと?」
「あはは……」
胡桃は気恥ずかしさで顔を赤らめる。

「そうなのね〜おめでたいわね〜」

「すみません。今の話、詳しく聞かせていただけませんか? 櫻坂の再開発?」
真剣な声で聞く市長からの質問に、柿崎は不思議そうな顔をする。

「来年度を目処に、櫻坂付近の土地を市が買い上げて大型商業施設を誘致するって、ベリが丘市の職員の方から聞いてますけど……?」
「商業施設?」
壱世は全く心当たりが無いような表情だ。

「櫻坂が大好きだからとっても迷ったんですけど、ベリが丘も変わっていく時期なのかと思うとね。正直、良い価格を提示いただけたのでベリ野で気持ちも新たに再出発することにしました」

「櫻坂の再開発……」
胡桃もつぶやくと、壱世の方を見上げて顔を見合わせた。


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