恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
壱世が向かったのは、さくらベーカリーの跡地だった。

「先月までは更地だったのに、コインパーキングになっちゃったんですね。なんか悲しいな」
「おそらく一時的な土地活用のためだと思うが……」
彼は料金などが表示された看板を見た。

「Uパーク、烏辺(うべ)グループか」
「烏辺グループって、よくCMが流れてますね」

ベリが丘を拠点に不動産や建設などの事業を行う、比較的大きな会社だ。

「何かあるんですか?」
「……」
「壱世さん?」
壱世は何かを考えているようだ。

「何でもない。帰るか」
再び乗り込んだ車の中でも、彼は何かを考えているようだった。

「胡桃」

自宅マンションの前でシートベルトに手をかけ車をおりようとする胡桃に、壱世が声をかける。

「再開発の話は絶対に口外しなようにしてほしい」
目を見て、真剣な顔で言う。

「わかりました。気をつけます……けど、どうかしたんですか? そんな難しい顔して」
「何でもない。まだ市でもオフレコにしているようだから、言わないでくれればそれでいい。おやすみ」

そう言って頭を撫でて、彼は胡桃を車からおろした。
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