恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「着物、自分で着られたのか？」

歩きながらの壱世の質問に、胡桃は苦笑いを浮かべる。

「全然ダメでした……壱世さんは自分で着られるんですね」
「女性よりは全然簡単だからな」

「それにお茶も点てられるんですね」
「栗須の人間はみんな、着付けも茶の湯も生け花も、十玖子さんに叩き込まれてる」
壱世の発言に、あらためてすごい家柄なのだと感じる。

「足は大丈夫なのか？」
「はい。全然何ともなかったです！」

「そうか、なら茶席での正座も大丈夫だな。今日はカジュアルだと言っていたから、胡桃は和室のマナーだけ気にしていれば、あとは十玖子さんが教えてくれるよ」
二人は庭の茶室にたどり着いた。

「そこで神社でするみたいに手と口を洗って、あの狭い入り口から入って」
そう胡桃に教えると、壱世は胡桃とは別の入り口に向かっていった。


小ぢんまりとして品の良い室内には風炉(ふろ)と呼ばれる炉の中で湯が沸かされ、床の間には墨文字の掛け軸と夏椿の白い花が生けられている。