恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
「え?」

壱世の本気とも冗談ともつかない言葉に、胡桃の心臓が一瞬反応する。

「……またからかってますよね。そういうのは、本物の婚約者の方にだけ言った方がいいですよ」
精一杯の冷静ぶった顔で答える。

「……それもそうか」
彼は含みのある顔で笑う。

「アイスコーヒーだな。胡桃は?」
「え、あ! 注文……えっと」

キスをしたり、こういうことを言ったり、彼の真意がつかめなくて戸惑う。

「お姉さん、この前あそこで覗いてませんでした?」
「え」

注文を取りに来た黒いエプロン姿の店員に聞かれる。
三十代くらいの見た目をしたメガネの男性だ。
胡桃の前では、壱世がまたおかしそうに笑っている。

「バレてましたか」
「いつ来店されるか楽しみにしてました。今日はメガネじゃないんですね」
「あの、実は私こういう者で……」
胡桃は名刺を差し出した。

「あ、ベリビ」
「ご存知ですか?」
「ベリが丘に住んでたらみんな知ってますよ」

店員の言葉に、胡桃は壱世の方をチラッと見てベリビの知名度を誇るようにニヤリと笑った。

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