冷たい夜に、愛が降る




あれから、私と御田くんは電車から降りて、一緒に学校まで向かった。


道すがら、目に入ったのは、巨大スクリーンの広告。
煌めくライトに照らされながら歌う青年の姿に息を呑む。

その声は、まさしく隣を歩く彼のもの。


――広告の中のあの大スターが、今、私の隣を歩いているなんて。


というか、こんな有名人が、私みたいなのとふたりで歩いて大丈夫なのだろうか。


もし、御田くんだということがバレて、私との関係を誰かに誤解されたり、週刊誌に撮られたりなんかしたら……。


思わず、辺りをキョロキョロと確認してしまう。
こっちを見ている不審な人物は、いないだろうか。


「香山さん?」


チラッとこちらに視線を向けた御田くんとバチッと目が合う。


「あ、すみません……不審な人物がいないか……確認してました……」


「ふはっ」


私の発言に、御田くんが何やら吹き出した。


え。


今の、そんなにおかしかったかな。


マスクで口元は隠れているけれど、チラッと見えた綺麗な目が細められて、不覚にもドキッとする。


御田くんって、そんなふうに笑うんだな。
初めてみた……。


「どっちかっていうと、香山さんの動きの方が不審だったよ」


「はっ……すみませんっ!やっぱり、距離をとって別で学校まで向かった方が!」


恥ずかしい。


慌ててそう言って、御田くんのそばを離れようとしたのに。


「いや、目的地一緒なのにわざわざ離れるの意味わかんないでしょ」


「……っ!?」


彼の長い手が、私の肩を引き寄せたせいで、彼の爽やかな香水の香りに包み込まれて、その落ち着いた声が直接耳に伝わる。


な、なにこれ。


さすが、芸能人。
やることが、ドラマのワンシーンだ。



「あのっ」


「別に、アイドル売りしてるわけでもないし。他人のプライベート写真無断で上げて好き勝手あーだこーだいうやつの道徳観が明らかにおかしいんだから。香山さんは何も気にしないで」


ゆっくりと私から手を話した御田くんに「ね?」と念を押され、頷く。


「……は、はいっ」


不思議だ。


あんなに周りの目が気になっていたのに。
御田くんのその言葉で納得して、不安が少しずつ溶けていった。

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