冷たい夜に、愛が降る
*
あれから、私と御田くんは電車から降りて、一緒に学校まで向かった。
道すがら、目に入ったのは、巨大スクリーンの広告。
煌めくライトに照らされながら歌う青年の姿に息を呑む。
その声は、まさしく隣を歩く彼のもの。
――広告の中のあの大スターが、今、私の隣を歩いているなんて。
というか、こんな有名人が、私みたいなのとふたりで歩いて大丈夫なのだろうか。
もし、御田くんだということがバレて、私との関係を誰かに誤解されたり、週刊誌に撮られたりなんかしたら……。
思わず、辺りをキョロキョロと確認してしまう。
こっちを見ている不審な人物は、いないだろうか。
「香山さん?」
チラッとこちらに視線を向けた御田くんとバチッと目が合う。
「あ、すみません……不審な人物がいないか……確認してました……」
「ふはっ」
私の発言に、御田くんが何やら吹き出した。
え。
今の、そんなにおかしかったかな。
マスクで口元は隠れているけれど、チラッと見えた綺麗な目が細められて、不覚にもドキッとする。
御田くんって、そんなふうに笑うんだな。
初めてみた……。
「どっちかっていうと、香山さんの動きの方が不審だったよ」
「はっ……すみませんっ!やっぱり、距離をとって別で学校まで向かった方が!」
恥ずかしい。
慌ててそう言って、御田くんのそばを離れようとしたのに。
「いや、目的地一緒なのにわざわざ離れるの意味わかんないでしょ」
「……っ!?」
彼の長い手が、私の肩を引き寄せたせいで、彼の爽やかな香水の香りに包み込まれて、その落ち着いた声が直接耳に伝わる。
な、なにこれ。
さすが、芸能人。
やることが、ドラマのワンシーンだ。
「あのっ」
「別に、アイドル売りしてるわけでもないし。他人のプライベート写真無断で上げて好き勝手あーだこーだいうやつの道徳観が明らかにおかしいんだから。香山さんは何も気にしないで」
ゆっくりと私から手を話した御田くんに「ね?」と念を押され、頷く。
「……は、はいっ」
不思議だ。
あんなに周りの目が気になっていたのに。
御田くんのその言葉で納得して、不安が少しずつ溶けていった。