冷たい夜に、愛が降る
なんかもう……全部、疲れちゃったかも。
家に帰って、優子さんにため息をつかれるのも嫌。
あからさまに怒鳴ったり殴られるわけじゃない。必要な衣食住は養ってもらっているからこそ、不満なんて言えない。
それが、逆に、じわじわとゆっくり蝕まれていくみたいでストレス。
もう、自分が誰に何を求めているのかもわからない。
あの家に帰るのが怖い。
私の足は、ひたすら、家とは反対方向の繁華街に向かっていた。
こんな時、すぐに連絡を取れる友達もいない自分が哀れで、フッと笑みがこぼれる。
その瞬間、先週、御田くんと一緒にお昼ご飯を食べたことを思い出した。
あの時は、私、心の底から、楽しかったな。
また、彼に会えたらって……。
いや、家族思いの彼に、自分の父親のことを知られたら引かれるに決まっている。
御田くんは、私と自分は似ているって言ってくれたけど……やっぱり全然違うんだよ。
とぼとぼと歩いていると、次第に周囲の雑音が大きくなってきて、なんだか落ち着く。
独りじゃない、そう錯覚できてしまって。
「お姉さんひとり?」
突然、横から男性の声がして顔をあげると、そこには、いかにも柄の悪そうな男の人ふたりが立っていた。