冷たい夜に、愛が降る
普段なら、もしこんな場面に遭遇しても、目を合わさずに早歩きで横切って無視するところ。
でも、今日はそんな気力もなくて、立ち止まってしまった。
そもそも、こんな時間に繁華街を歩いたことなんてない。
危険を顧みず、自らそんな場所に足を踏み入れる子たちの気持ちが理解できなかったけど、今ならちょっと分かる。
「お姉さんみたいな可愛い子におすすめのバイトあるのよ。すげぇ稼げるよ」
“稼げる”
その言葉に、思わず顔を上げて反応してしまった。
「おっ、いいね、その反応。お姉さん、金欲しいんだ?」
「稼げるって……どれくらいですか」
おかしい。自分でも分かっている。
でも、私がここで、何か危険な目に遭ったって、困る人はどこにもいない。
もし、ただ自分が我慢して、少し傷つくぐらいで、稼げるのなら。
もう、十分、傷ついた。我慢にだって慣れている。
「一日で稼ぐ子はめっちゃ稼ぐよ…………万とか」
耳元で囁かれた金額に目を見開いた。
分かっている。
嘘に決まっている。
まともな仕事なわけがない。
でもその一方で、そういう仕事でしっかり稼いでいる人がいるのも聞いたことがある。
もし、すぐにでもお金が手に入れば……。
お父さんのことのショックと、今まで耐えてきたことが爆発して、自分の良心が正常に働かなくなっている自覚はかろうじてある。
気が付けば、腕はもうひとりの男にしっかり掴まれていた。
ここでされるがままってことは、ついていくと言っているようなもの。
「こっから歩いて5分くらいのとこだからさ」
そう言いながら、男たちはニヤニヤと満足そうに歩き出した。