冷たい夜に、愛が降る
「えっと、大丈夫です」
正直、今は口に何かものを入れる気分にはなれない。
一週間前、お互い頑張ろうねって、そう笑顔で話した相手にあんなところを見られてしまうなんて気まずすぎて。
ちゃんと御田くんの顔が見られない。
「じゃあ、俺のおすすめでいい?」
「えっ……」
「ここ、うまいんだよ」
「そ、そうなんだ……でも、」
なんで……まるで何もなかったみたいにできるんだろう。
ちょっと付き合ってって、御田くんの晩ご飯にってこと?
「香山さんが食べきれなかったら俺が食べるし」
御田くんはそういうと、カウンターにいたマスターを呼んで、食事や飲み物を注文した。
「香山さん」
穏やかな優しい声。
さっき、男の人たちに向けたのとは、全然違う。
だからこそ、苦しい。
「……はい」
「さっきから、全然こっち見ないね」
「……」
「あんなところ、こんな遅い時間に、歩くもんじゃないよ。たまたま見かけたからよかったけど……」
「……」
御田くんの優しさが、今は胸に刺さって痛くて、無性にイラついてしまう。
あそこが危険なことぐらい、わかっているよ。
でも、どうしようもなく、あんなところをこんな時間に、歩きたくなってしまった。
御田くんに、そんな気持ちはきっとわかってもらえない。