冷たい夜に、愛が降る
「とにかく、あんま無理しないように。なんかあったらいつでも言って」
「はい。お気遣い、ありがとうございますっ」
「お疲れ様でした」と挨拶してから、私は更衣室へと向かう。
正直、千葉さんからのああいう気遣いは嬉しい。
でも、千葉さんは私のお兄ちゃんなんかじゃない。
頼ったら、きっと、どんどん寄りかかってしまう。
誰かの優しさをあまりにも真に受けて、甘えたら……きっと。
『恋白のことは好きだけどさ……時々、ちょっと重いっていうか…』
嫌な過去を思い出す。
あんな思いは、もうしたくない。
脳裏に響くセリフを振り払うように、ブンブンと首を振って、急いでユニフォームから着替えて、ロッカーに入れていたリュックのポケットからスマホを取り出す。
『友達と偶然会ってご飯に行くことになったので、夕飯は大丈夫です』
そうメッセージを打ち込んで、優子さんに送信する。
私は、今まで何回、優子さんたちに嘘をついて来ただろう。何百回になると思う。
『わかりました』
優子さんのその返信を確認して、カフェを出る。
できるだけ、帰りたくない。
血の繋がった本当の親子の仲睦まじい姿を、横目で見ながら、快く思われていない私が、その中に入れてもらうのは、息が詰まるから。
いっそ、施設に預けられた方が……なんて考えが何度も過るけれど、そんなこと思っちゃ……ダメだよね。
小さくため息をついてから、できるだけゆっくり歩きながら、近くのファーストフード店に向かった。