繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



 康代から預かった紙袋を下げて、吉沢らんぷを訪れると、秋也は作業台の前に座って、台座から外されたランプシェードを眺めているところだった。

「早坂さん、いらっしゃい」

 シェードを置いて笑顔を見せる秋也に、奈江は頭を下げて尋ねる。

「修理ですか?」
「ああ、これは違うんだ」
「違うんですか?」

 修理じゃなきゃ、何をしてるのだろう。興味が湧いて作業台に近づくと、秋也が立ち上がる。

「早坂さんは修理?」

 視線が紙袋に注がれるから、奈江は菓子折りを取り出す。

「伯母が、猪川さんにって。修理のお礼です」
「それはうれしいな。ありがとう」

 すんなりと受け取ってくれる。変な遠慮がないから、ホッとする。自分もこのぐらい素直になれたらいいのに、と奈江は思う。

「冷蔵庫、ありますか?」
「冷やした方がいいもの?」
「栗きんとんなんです。すぐに食べないなら、冷蔵庫に入れてくださいって」
「栗きんとんかぁ。もうすぐ3時になるね。早坂さん、一緒に食べていく?」

 掛け時計へと目を向けて、彼はそう言う。

「えっ」
「遠慮しなくていいよ。ちょうどいま、コーヒー豆もらったから、すぐに淹れるよ」

 秋也が店の奥へ行こうと背を向ける。

「私は大丈夫ですから……」

 仕事の邪魔はしたくない。引き止めようとした奈江は、レジの奥にある生成りのカーテンが揺れたのを見て、口をつぐんだ。

 秋也以外に誰かいるのだろうか。そう思ったとき、カーテンから人が出てくる。女の人だ、と奈江は緊張して言葉を失う。
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