繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「宮原神社の縁結び祭りはね、離れる縁に感謝するお祭りだよ」
「離れる縁?」

 興味を持つ奈江に、康代はうなずく。

「これまでのご縁を神様に預けて、新たなご縁をいただく。出会いに感謝するお祭りでもあるんだよ」

 縁を預けて、縁をいただく?

「奈江ちゃんは真紀子と縁があって生まれてきたんだから、一度、宮原の神様にご縁を預けてくるといいよ。また真紀子と縁を持ちたいと思うなら、宮原の神様にお願いしてみるといい。必ずまた、いいご縁があるよ」

 そんなことできるんだろうか。半信半疑だけれど、奈江はどこかすんなり受け入れている。

「あるといいな、いいご縁」
「もしかしたら、お祭りで出会う人と、いいご縁がいただけるかもしれないね」
「そういうお祭りなの?」
「そう。みんな、いいご縁を得るためにお祭りに出かけるんだよ」

 縁を求める人々の集まり。そこからまた新しい縁が生まれる。秋也も、新しい縁を求めているのだろうか。

「おばさんは行かないの?」
「私はもう、たくさんいいご縁をいただいたから」

 離さなければならない縁は、彼女にはないのだろう。

「私もそうやって言えるようになりたいな」

 康代は優しくほほえむと、何か思い出したように軽く手を合わせる。

「そうだ、奈江ちゃん。帰りに吉沢らんぷさんに寄ってくれない?」
「らんぷやさんに?」
「猪川さん、甘いものが好きそうだったから、ランプの修理のお礼を兼ねて、デパートで栗きんとん買ってきたの。お届けしてもらえない?」

 そう言うと、奈江の返事を待たず、康代はいそいそと台所へ入っていった。
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