繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



 平宮達志は数学の新米教師だった。秋也の通う工業高校は、勉強は不真面目だが、生活面は比較的真面目という生徒が多かったが、自我の強い学生も少なくなく、だいたい、良くも悪くもはっきりした生徒がクラスを牛耳っていた。強くなければ馴染めない。そういう雰囲気は少なからずある高校でやっていけるのかと心配になるようなひ弱で、校則違反を見つけてはこんこんと諭す素朴な男だった。

 一部のクラスメイトは平宮をバカにしていたが、そもそも秋也は教師に興味がなかった。学校に行かないと、専業主婦の叔母が心配するし、学校が終われば、吉沢らんぷでのアルバイトがある。らんぷやに行けば、技術を学べるし、専門的な情報を欲しがる客は吉沢店長しか相手にしないから、地元の知り合いの接客は負担ではなかった。時折、心配して顔を出す遥希と会うのも楽しかった。教師に気を回す時間なんてなかった。

 休まず学校に通い、勉学も手を抜かない秋也は、周りの生徒から浮いて見えたのだろう。あるとき、平宮が『本当に就職志望か?』と聞いてきた。

 はやく稼げるようになりたいんだと伝えると、『おまえは成績がいいから、大学進学を考えた方がいい』と言ってきた。

 保護者会では、大学に進学させてあげてほしいと、平宮自ら、叔母に頭を下げた。叔父はしたいようにするといいと言うし、吉沢店長も大学へ行った方が選択肢が広がると背中を押してくれた。
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