繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「それで、温美さんはなんにもわかってないって?」
秋也にさえ、兄妹という事実を隠していた。彼女の理解者は平宮という教師だけだったのだろうか。
「俺は何もわかってなかった。あいつが死ぬとわかる日まで、何もしないで平然と生きてきた。温美から平宮を奪ったのは、俺だ。そう思うと、今でも温美は俺を許してないんじゃないか。そんな気持ちになる」
「温美さんにそう言われたわけじゃないんですよね?」
「温美は、ありがとうって言ったよ。病院に来てくれてありがとうって。あいつらの父親は再婚してるから、平宮も温美同様、ひとりで生きてきた。死ぬ時ぐらいはひとりにしたくないから、そばにいてあげてほしいって。俺と温美の目の前で、平宮は死んだよ。死にたくないって言ったくせに、幸せそうな顔してた」
今にも泣き出しそうな秋也に胸が痛む。
なぜ、こんな話をするのか。弱みを見せるような真似をするのか。いつも穏やかで優しい彼の中にひそんでいた苦しみを、ちゃんと受け止められているのだろうか。
奈江は自問しながら、秋也の手を握り返す。
「あんまり自分を責めないでください」
「そうだな。温美もそう言った。死ぬのは運命だったんだって」
「運命……」
「仕方のないことだった。温美はそうやって俺を励まして、俺は平宮がくれた人生を大切に生きるんだって誓った。だけどさ、そんなたいそうな人生は送れてない。今は、生きてればそれでいいんだって、それだけだ」
「そう思うだけでもすごいことです」
「そうかな。たださ、ほしいものはほしいって、素直になることにはしてる」
「いつ死んでも、後悔しないように?」
そうだよ、というように秋也はうなずくと、こちらをまっすぐ見つめてくる。
秋也にさえ、兄妹という事実を隠していた。彼女の理解者は平宮という教師だけだったのだろうか。
「俺は何もわかってなかった。あいつが死ぬとわかる日まで、何もしないで平然と生きてきた。温美から平宮を奪ったのは、俺だ。そう思うと、今でも温美は俺を許してないんじゃないか。そんな気持ちになる」
「温美さんにそう言われたわけじゃないんですよね?」
「温美は、ありがとうって言ったよ。病院に来てくれてありがとうって。あいつらの父親は再婚してるから、平宮も温美同様、ひとりで生きてきた。死ぬ時ぐらいはひとりにしたくないから、そばにいてあげてほしいって。俺と温美の目の前で、平宮は死んだよ。死にたくないって言ったくせに、幸せそうな顔してた」
今にも泣き出しそうな秋也に胸が痛む。
なぜ、こんな話をするのか。弱みを見せるような真似をするのか。いつも穏やかで優しい彼の中にひそんでいた苦しみを、ちゃんと受け止められているのだろうか。
奈江は自問しながら、秋也の手を握り返す。
「あんまり自分を責めないでください」
「そうだな。温美もそう言った。死ぬのは運命だったんだって」
「運命……」
「仕方のないことだった。温美はそうやって俺を励まして、俺は平宮がくれた人生を大切に生きるんだって誓った。だけどさ、そんなたいそうな人生は送れてない。今は、生きてればそれでいいんだって、それだけだ」
「そう思うだけでもすごいことです」
「そうかな。たださ、ほしいものはほしいって、素直になることにはしてる」
「いつ死んでも、後悔しないように?」
そうだよ、というように秋也はうなずくと、こちらをまっすぐ見つめてくる。