繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
*
商店街を抜けて大野駅へ向かう途中、奈江は白地に赤文字の看板を見つけて足を止めた。いつも通る道なのに今まで気づかなかった。
『美容院 アルテ 商店街北すぐ』
看板の矢印に従うように振り返る。そうして、商店街の北の方角へ足を踏み込んだ。
洋服店にパン屋、文房具店の前を通り過ぎ、アルテと書かれたガラス張りの店舗の前で立ち止まる。
ガラス越しに店内をのぞく。丸い鏡が二つに、白い椅子が二脚ある。奥には、カウンターのような対面式のテーブルが置かれていて、若者と白い金髪の女性が向かい合って座っている。
温美は接客中のようだ。そうでなくても、いきなり入店する勇気はない。
気まぐれに来てみただけの奈江がきびすを返そうとしたとき、温美が顔をあげた。こちらに気づいて腰を浮かす。どうしよう。戸惑っていると、客らしき若者が振り返る。そうしてまた、奈江は驚く。環生だった。
「さっき、らんぷやに来てた、秋也くんのお友だちだよねー? 入ってこないのー?」
ガラス扉を押し開けて、温美が立ち尽くす奈江に声をかけてくる。後ろから、環生も顔を出して、「早坂さんじゃないか」と言う。
「なになに、環生くんも知り合いなの? お客さんいないから、入ってきてよ」
環生は客じゃないのだろうか。奈江は迷いつつ、頭を下げる。
「早坂奈江って言います。帰る途中に看板を見つけたので、ちょっと寄ってみたんです」
商店街を抜けて大野駅へ向かう途中、奈江は白地に赤文字の看板を見つけて足を止めた。いつも通る道なのに今まで気づかなかった。
『美容院 アルテ 商店街北すぐ』
看板の矢印に従うように振り返る。そうして、商店街の北の方角へ足を踏み込んだ。
洋服店にパン屋、文房具店の前を通り過ぎ、アルテと書かれたガラス張りの店舗の前で立ち止まる。
ガラス越しに店内をのぞく。丸い鏡が二つに、白い椅子が二脚ある。奥には、カウンターのような対面式のテーブルが置かれていて、若者と白い金髪の女性が向かい合って座っている。
温美は接客中のようだ。そうでなくても、いきなり入店する勇気はない。
気まぐれに来てみただけの奈江がきびすを返そうとしたとき、温美が顔をあげた。こちらに気づいて腰を浮かす。どうしよう。戸惑っていると、客らしき若者が振り返る。そうしてまた、奈江は驚く。環生だった。
「さっき、らんぷやに来てた、秋也くんのお友だちだよねー? 入ってこないのー?」
ガラス扉を押し開けて、温美が立ち尽くす奈江に声をかけてくる。後ろから、環生も顔を出して、「早坂さんじゃないか」と言う。
「なになに、環生くんも知り合いなの? お客さんいないから、入ってきてよ」
環生は客じゃないのだろうか。奈江は迷いつつ、頭を下げる。
「早坂奈江って言います。帰る途中に看板を見つけたので、ちょっと寄ってみたんです」